なかむらで並ばずに食える幸運
土器川右岸にこいのぼりが泳いでいれば営業中だ。昔は客が庭の畑からネギを取ってきていたなどの伝説がある名店中の名店、丸亀市飯山町の「なかむら」は、ものすごい行列ができる店として知られている。
もともと養鶏をやっていた先々代が昭和47年に始めた店だ。今はない丸亀の名店「西森」に妹さんが嫁いだ関係で、西森で修業をして開店にこぎつけた。当初は現在と反対の東側が入口で、納屋のような小屋でうどんをいただく雰囲気が受けに受けた。細い道から直角に曲がる入口の道は、入りにくいことこの上なかった。運転手付きの黒塗りの車で来る大企業の重役もいた。いつも他のお客のために笑顔でネギを切るタクシー会社の社長もいた。小屋に入りきれず、時には外で立ち食いすることもあった。とにかく、ツルツルとのど越しのよいうどんの味が多くの人々をとりこにした。
今は西側の土器川の方を入口にして駐車場もできたが、日曜や祝日は時間単位の待ち時間になる。うまいうどんのためにはひたすら我慢するしかない。休日には県外客も多い。
ところが、この店で、並ばずにすぐに食べられるラッキーな男性がいることが分かった。常連たちはこの男性の存在を知っていた。けど、「毎日おるけん、家の人か“いっけ(親戚)”の人やろ」「自分で釜からうどん出していることもあるから関係者やろ」と思うくらいで、さほど気に掛けることもなかったようだ。
いつでも厨房に入ることを許されているというその男性に会うことができた。背が高い男前の日焼けした紳士で、近くの建設会社の社長さんとのこと。
40年以上、ほぼ毎日通ってる
「どれくらい店に来るんですか?」
「わしかい。店の休みや仕事で出張もあるけん、年に300日くらいかな」
「えっ、ほぼ毎日ですね。いつごろからですか?」
「店ができてずっとや」
「なかむらのうどんはどんなところがいいんですか?」
「ここのうどんは、コシがあるのに芯まで軟らかい。丁寧に湯がくからやろ。他の店は、コシがあっても芯が残っとるのが多い。そこが違いやのう。40年以上食うとるけんな」
昔は店主がうどん玉の出前に行くときは、釜の見守り番まで任されていたという。主人が急に黙って飛び出していくから、仕方なかったそうだ。これは、家族同様の扱いにもナットク‼ お客様も文句は言わんやろ。
社長さんは興味深い話を聞かせてくれた。
「昔は鶏飼うとったけん、店の隣の鶏舎に行って卵をもらって、ついでに畑からネギを取って自分で切って、卵と醤油かけて食う人は開店のころからようけおったぜ。ひょっとして、今はどの店にもある釜玉はここがはしりなんちゃうかな」