お店で揚げていると信じていた天ぷらが…
昭和40年頃、昔の寺町通りを通って今は旧丸亀街道になっとる交差点の角に「ワタヤ」いううどん屋があった。小学校の3年生くらいから、僕ひとりで食べに行っきょったよ。
入口の横に窓ガラスがあって、天ぷらを並べた陳列棚が店の外から見えるようになっとんや。で、僕はいっつも外から棚をのぞいて、好きな天ぷらがあるかどうか確認してから、店に入りよった。コロモに卵をようけ入れとんかしらん、黄色い天ぷらやったなあ。
僕は、その店の天ぷらは、店で揚げとるもんやと信じ込んどったけど、お店で作ったものじゃなかったんよ。ある時な、いつもみたいに店に行ったら、知らんおじいさんがギッコンギッコン自転車こいで店に来たん。「だれかなあ?」って見とったら、そのおじいさんが持っとった新聞紙の包みの中から出したんよ、僕の好きな天ぷらを。で、おじいさんはその天ぷらを勝手にひょいひょいっと陳列棚に並べて、お店のおばちゃんからお金もらって帰っていくわけ。あれは「ええー!?」ってなったな。「勝手に並べた!」って(笑)。
天ぷらの種類は、グリーンピースのかき揚げみたいなんと、ごぼうとれんこん。だいたいその3つくらい。いつも注文しとったなあ、天ぷらとばら寿司とうどん。セルフじゃなくて、おばちゃんが持ってきてくれるんや。「はい、どーぞー」いうて、どんぶりに指つっこんで(笑)。天ぷらは30円くらいやったのに大きいし、うどんの出汁も濃いめでおいしかったなあ。
ソース味の「うどんのお好み焼」があった
「ワタヤ」で作ってくれる『うどんのお好み焼』は、うちのじいちゃんも好きやった。お店のなかに大きい鉄板があって、そこで作ってくれとった。鉄板でうどんを焼いて、肉混ぜて、キャベツとネギをがばっと入れて、シャッシャッとソースをかけたやつでな。ソース味の焼きうどんみたいなもんやな。今はお好み焼き屋に行くとどこにでも「うどん焼き」があるけど、あの思い出の味はちょっと違うんや。材料は同じやと思うけど…。母がようお土産として持って帰りよった。懐かしいなあ。