素うどん30円ときつねうどん40円の思い出
昭和40年代から昭和50年ごろ、国分寺町を南北に流れる本津川と市道南部中央線の橋梁の交わるところに「白井」という老夫婦が営んでいる駄菓子屋さんがありました。私は、小学校1年から中学生になるまで、よくこの店へ通っていました。子どもからすると、このお店は魔法箱のようで、20円持っていると長く遊べたものです。
今考えると地下みたいなところがある1階建てで、ひなびた店舗でしたが、私にとっては非常に懐かしいいい思い出です。学校が終わり、すぐに着替えて小銭を握りしめ、店の横を流れる本津川にアカマツ(*川魚のオイカワ)などを釣りに行ったり、水遊びをしていました。ポケットに入っている小銭を持って、白井で売っていたストローに入った寒天の駄菓子を1本1円で買い食いをしていたことを思い出します。
その店には、テーブルが1個と丸椅子が5個ぐらいあり、大人たちは、そこで、うどんを食べていました。値段がわからず、私たち子どもには、手が届かないぐらい高いイメージがありましたが、そのうち大人たちが素うどんを30円で食べているのがわかり、思い切って注文したことを覚えています。白井のおばさんは、「大丈夫な、30円やで」と聞いてくれました。「持っとるで」と言うと5分ほどすると、白いうどんの上に、かまぼことねぎが乗ったうどんが出てきました。味は、子ども用に少し甘くしてくれていたのか、どこででも食べたことがない味だったように感じました。
あっ、おあげが載っとる!!
それからというもの、毎日行っていた白井だけれど、うどんを注文するのは、1週間に1回ぐらいで、それが私にとってはすごい贅沢だったような気がします。驚いたのは、ある時大人が食べているうどんに「おあげ」が入っているではありませんか。それはきつねうどんでした。白井のおばちゃんに、ぼくも、あの「おあげ」が乗ったうどんがほしいと言うと、「40円もするで、大丈夫なんな」と言われ、子ども心に「持っとるで」と自信をもって注文したことを覚えています。そのきつねうどんは、非常においしく、きつねこと「おあげ」は、自家製であまがらく煮込まれており、夢のような時間が過ぎていきました。
しかし、つらい思い出もあります。その白井の調理場は、店の1階から、階段で地下に降りたところにあったのです。大きな釜と調理スペースが広がっていました。隣を流れる本津川との境界は石積で、大雨で大水が出た時は、地下は濁流に飲み込まれてしまい、うどんが作れなくなります。白井のおじさんもおばさんも後片付けで忙しそうにしていました。1階店舗の駄菓子は大丈夫だったのですが、大好きなうどんは、1週間ぐらい食べられなくなりました。さらにつらい思い出は、この店が昭和の終わりごろに店じまいしてしまったことです。