うどんには醤油だけ
- 子供の頃、うどんはご家庭では食べられてましたか?
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ほとんど食べてない。おうどん食べれるいうたらね、お祭りやお正月とかのおめでたい席に、お寿司とおうどんがセットで出てきよった。お祭りの時に食べるのは伸びたうどんよ。お祭りのときは楽しかったからそれでおいしかったけど、日常的に食べるうどんの方が味としてはおいしかったと思う。お祭りのうどんは固まってしまっての。あんまりおいしいいうイメージはないんやけどね。
日常的にうどんいうんは近くにおうどん屋さんがあったんで、お客さんが来た時に丼さげて買いに行って、お客さんに提供する。自分の口に入らないほうが多かった(笑)。
叔父がうちに訪ねて来るでしょ。大体12時頃に来るんや。そしたらお婆さんがわかっとるから「ハイー」言うて丼下げて、おうどん屋さんにうどん玉買いに行く。買いに行って戻ってきたら、その叔父さんは醤油だけかけて食べる。できだちしか食べない。だから12時ぐらいに来たらおうどん屋さんででけとるから、それを買うてきて食べると。生醤油ではなくて普通の醤油。そのために昼頃になったら来る。はっきりしとる。家のもんからしたらダシを作るとかそういう手間もいらん。
- 軽食というより、割と高価な食べ物だった感じですか?
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そういう感じやね。逆に言うたら、作りたてしか食べたことがない。昭和20年代後半くらいの話やね。
僕らが日常的に食べるんは打ち込みうどんね。あれをじいさんばあさんが打って、味噌汁ん中に放り込んで食べよった。ご飯がなかったけんの、その頃は(笑)。
- その近所のうどん屋さんはなんていうお店でしたか?
- 「龍満うどん」て言って、製麺所でした。卸と玉売りだけで、店の中では食べられなかった。
- うどん玉を買って帰って食べる時にトッピングは何かしてましたか?
- その頃はトッピングとかなかったと思うで。今のうどんと比べたら、天ぷらとかそういうのはなかった。お揚げ一枚のっとったらそれでOKでなかったんかいの。ネギもあったかなかったか。
- 他にうどんを買うことはありましたか? 年越しでうどんを食べるという話も聞いたことがあるのですが。
- 蕎麦はあったか知らないけど、うどんはなかったな。記憶も定かではないんだけど、年末が近くなったら製麺所でお蕎麦の予約を取っじょったと思うわ。おうどんも含めて。
- 仏生山ではどじょう汁を食べていたと聞いたんですが。
- 食べよったけど、日常的には食べよらんかったん違うんかな。今のうなぎ食べるんと一緒違うん?
仏生山の素麺
- 仏生山は昔は素麺作ってたとお聞きしたんですが、何年ごろまで製造してたかわかりますか?
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僕が知っとんは一軒だけ、昭和の40年くらいかいの。山本さんがやっりょった。天日干ししてた。あの素麺はどこに出っしょったんかな。そなにめちゃめちゃようけ作っりょらんかったと思うけどね。僕らも食べるいうたら小豆島の素麺やの。それか、徳島の半田素麺とか。
素麺なんて食べた覚えあんまりないんやけどな。最近やね素麺食べ始めたんは。お土産もんで乾麺ができとるじゃないですか。で、うちの嫁はんがたまたまもらってくるんやけど、「いらん。なんでこななめんどくさいことせないかんの」って言うて(笑)。
- 乾麺は茹で時間長いですからね。
- うちの娘が埼玉におるんや。娘に送る荷造りの中に放り込んで(笑)。
法事はうどんと寿司がおみやげ
- 法事ではうどんは出てましたか?
- おみやげにうどんは入っりょったよ。うどんとかお寿司。法事で食べる以外にたくさん頼んどんやわな。たいていうどんとかお寿司とかはおみやげとして入れよったよ。
- 宗派はどちらになりますか?
- うちは浄土真宗。
ブームになる前の「山越」でうどんを食べていた
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僕な、基本的にかけしか食べんのやけど、やっぱりうどんは好みやと思った。これだけうどん屋があるいうんは、やっぱり人間、「うまい」いうんが人によって違うからやないかと思う。
好みがあるから、仏生山で6軒7軒あったって6軒7軒がつぶれんとやっていける。近いうどん屋をわざわざ通り越してあっちのうどん屋に行くとかね。昔は「冷凍うどん食べた方がマシや」っていうような店も実際あったんや。
- 昔ながらのうどん屋さんも減ってますね。
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「山越」なんか、昔あの近くに知り合いがおって、昼間とかあそこでうどん食べよったんや。その時には釜玉やなんやいうんはなかったわな。普通のうどんじゃわ。
その後、うどんブームが起きて流行ってる店があるって聞いて、「それどこな?」って聞いたら「山越」って言うから、「ええっ! そこ俺が昔食べたとこや」いうて。そこ、そんなに行列できる店? とかいう話になったんやけどな(笑)。
- 昔の「山越」を食べたことがあるのは羨ましいです(笑)。
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宮武製麺所(高松市仏生山町)のおやっさんがな、何年か前にものすごいお客さんが来てはやっじょる頃に近所の人が「宮武さん、ようけもうかっりょるんやろ」いうんや。一つの乗用車で来たら5人くらい来るでない。「5人入ったぞ、ならなんぼ売れるぞ」いうて計算してくれるんや言うて。
「だけどな、5人来たってな、一杯しか買わんのぜ」っていうんや(笑)。なんでなって聞いたら、「あっちこっち行って食べないかんけん、ひとりが一杯ずつ食べよったんでは何軒も行けんけん、一人が一杯買うてみんなで分けるんやのに」っていうてな(笑)。
- 最近は「おひとり様一杯のご注文をお願いします」って表示を出すうどん屋さんも増えてきてますね。
- あるんな(笑)。でもそうじゃないと商売ならんやろ。あと、うどん屋でパソコン打っとる奴がおるんや。いちばんハラ立つあれ。さっさと食うて出て行けと思う。ただでさえ昼時いうたら並んどるでしょ。それカフェとまちごうとるんやないかって。まあそれ、カフェもええ迷惑やろうけど(笑)。
- うどん屋さんはほとんどが昼しか営業してないですから、回転が勝負ですからね。
母がさぬき麺業でうどんを踏んでいた
- うちのおかん、体が大きかったけんの。今の高松市川部町におったけんな。家が「さぬき麺業」の香川さんちのすぐ近くだった。で、呼ばれて「おまえおっきょいんやけん、踏め」いうていつもダンゴ作りに行っきょったらしいで(笑)。
- 体重あるとうどん踏みにはいいらしいですね(笑)。
- 昔や言うたらうどん屋ややったら早死にするぜいうての。今だったらようけ打たないかんでない。
- 製麺機使うならまだしも、手打ちはハードですからね。
- ぜんぶやっじょったらぜったい早死にするって(笑)。
- あと、このあたりの郷土食って、うどんと素麺以外に何かありますか?
- 「ほっぽろ焼き」いうんもありましたね。腹が減った時に自分で小麦といて、砂糖ぽこーんと放り込んで、鉄板の中に移して焼いて食べよったよ。
- 今で言えばホットケーキみたいなもんでしょうか。
- そうそう。ホットケーキいうた方が今の子にはわかるわな。僕ら小さい頃いうたら、親が昼間おらんで、昼ごはんやいうたらおかずもなかったら、醤油かけてご飯食べるとかね。そういう時代だったけんね、小さい頃は。