香川県民のさぬきうどんの記憶を徹底収集 さぬきうどん 昭和の証言

昭和16年生まれの女性の証言

家の畑で作った小麦を農協で挽いてもらった

(取材・文:

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  • vol: 149
  • 2016.07.21
子どもの頃(昭和20年代)に家でうどんを食べていましたか?
 3日と飽かず口にしていましたよ(笑)。昼御飯におやつにと、しょっちゅう食べていました。
うどんは誰が作っていましたか?
 父親です。麺も小麦粉から作っていました。小麦粉を水で溶いて塩を入れ、それを手で捏ね、布を敷いて足で踏んで、出来上がった生地を包丁で切るまで、すべて手作業でしていました。ただ、出来上がった麺は今のうどんのように長くてしなやかではなく、太くて短いものでしたが(笑)。
作った麺をどのようにして食べていましたか?
 湯がいて釜から上がった状態の麺を、そのままダシにつけて食べていました。今でいう釜揚げでしょうか。ダシは醤油と煮干し、イリコを材料にしていました。

 あとは、大鍋に入っている味噌汁の中に湯通しや水で洗っていない麺をそのまま入れ、一煮立ちさせてから食べていました。「団子汁」のような感じでしょうか。太くて短いうえに、湯通しなどをしていないからか麺にかなりの粘りやぬめりがあって、食感はまるで団子した(笑)。

麺を作る小麦粉をどこで手に入れていましたか?
 家の畑で小麦を作っていたのですが、それを農協へ持って行って挽いてもらい、小麦粉にしました。その農協は今も下笠居小学校の前にあります。

父がうどん作りを教え、製麺所が出来た!

ご自宅の近所にうどん屋はありましたか?
 とても身近なうどん屋がありました。「木出(きだし)」さんという製麺所です。実は父がうどんの作り方を教えた店なんです(笑)。木出さんのご主人は塩田での仕事を辞め、次は何をしようかと迷っていましたが、うどん作りが得意だった父の勧めもあって製麺所を始めました。
その製麺所はいつ頃、ありましたか?
 私が中学生の頃(昭和30年頃)、小麦を挽いてもらっていた農協の前に店ができて、20年ほど前(平成7年頃)まで営業していました。

 小屋そのものといった雰囲気の店には近所の人がよく麺を買いに訪れていましたが、ちょっとしたテーブルや椅子も店内に並んでいて、その場で食べる人も多かったです。ご主人は、あちこちの家へ麺の配達もしていました。

その製麺所に行ったことはありますか?
 もちろんです! 「木出」さんのご家族とは親戚も同然の付き合いでしたから。私より一つ年上の仲の良かった女の子もいて、よく遊びに行きました。私がお店を手伝うこともありましたよ(笑)。湯がいた麺を味噌汁のお椀に入れて一玉分を量り、それをせいろに並べたりしていました。
当然、うどんも召し上がりましたよね(笑)。
 お店に行けば必ず、ご馳走になりました。でも、ご馳走になったと言ってもセルフでしたが(笑)。せいろから麺を取って丼に入れ、ネギとかまぼこをのせた後、鍋に炊いてあったダシも自分でかけていました。お客さんが食べていたうどんも、私が食べていたうどんと同じです。

うどんの作り方を丸亀で学んだ甥が、尼崎でうどん屋をしていた

うどんと身近な毎日だったんですね。
 実はもう一軒、身近だったうどん屋がありました。それは、甥っ子が兵庫の尼崎で営業していた「内田」という店です。

 甥は姉の子どもで県外にいましたが、小さい頃に香川へやって来たときには必ず、父のうどん作りを見学したり、「木出」さんのうどんを食べていました。

そしてその経験は大人になってもずっと胸を焦がしていたようで、甥は大きな会社に勤めていましたが、周囲の反対を押し切ってうどん屋を始めることを決意して、退職して丸亀にあるうどん作りを教えてくれる学校のようなところに通い始めました。

そして研修を終えると、退職金をすべてはたいて店をオープン。ところが、開店3日目に腰を痛めて入院することになったそうで、それから従業員を雇い、腰痛と闘いながら何とか営業していましたが、結局は2〜3年で店を畳んでしまいました。もう10年以上前の出来事になりますが、甥はどうしても父や「木出」さんのうどんを再現したかったようです。

屋島東町にある寺の大祭で恒例の振る舞いうどん

うどんに関する興味深いエピソードをたくさんお話しいただき、どうもありがとうございました。
 参考になるかどうか分かりませんが、あと一つだけうどんにまつわる話を。得度(僧侶になるための儀式)をしている関係もあって、毎年11月23日に行われる「成田山聖代寺(屋島東町)」の開創記念大祭に参加するのですが、その時に必ず来場者にうどんの接待があります。

 うどんの接待は古くからの恒例行事ではないと思いますが、最近になって始まったものでもありません。うどんと一緒にサツマイモや豆などの天ぷらも一緒につきます。なぜ、お寺でうどんの接待なのか理由は分かりませんが(笑)。

以前の取材でも、香川の某お寺でうどんの接待がある話を聞きました。機会があればそのことについて調べてみます。
 とりあえず、今年の11月23日に成田山聖代寺に来てね。うどんを何杯でも食べていいから(笑)。
はい、分かりました(笑)。

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