第二話
植田製麺所・後編
さぬきうどん店の東京出店を手伝った
- ご主人
- 昭和40年ぐらいにの、「東京に店据えるけん行ってやってくれ」言うて頼まれたん。
- 奥さん
- 何か大っきいとこの、国会議員か県会議員かなんかの偉もんさんが推薦してくれての。「あっちでうどん屋せー」言われたん。「機械もメリケン粉も全部据えるけん、打つだけしてくれたら日当あげる」言うて。ほんで、この人が下調べに行ったん。私は行とらんけどの。場所は丸の内のどこやらやったの。
- ご主人
- ど真ん中や、東京の。東京行って上見たらの、曇っとんじゃわ。「曇っとる。今日は天気が悪いの」言うたら、「いつもこんなんじゃわ」って。
- 奥さん
- スモッグじゃわ(笑)。
- ご主人
- 「ほーなー」言うて(笑)。
- 奥さん
- ほんでこの人、東京の方々へ連れて行ってもろとんで。
- ご主人
- 国会議事堂や方々へ連れて行ってもろたわ。木村武千代にも会わしてくれて。木村武千代やいうても知らんだろう? 香川から出た国会議員やわ。
- 奥さん
- その関係の人が、東京推薦してくれたんかの。
- ご主人
- うん。
- 奥さん
- そのオッサンがおったけん、何日おってもかまんかったんや。オッサンが「うちの仕事をしてくれ」言うから、ちょっと視察に行てな。
- ご主人
- 店の場所は丸の内の駅の何階か。初めは15坪やったけど、倍にしたん。30坪に。
- 奥さん
- 機械もメリケン粉も全部、うちが世話しての。「ここへ何買うて、何据えて、どやらこやら。水廻りはどーせえこーせえ、メリケン粉はどこの使え」言うて。
- ご主人
- 機械はうちと一緒の「福井」のを持って行った。ほんで「ここへ土間付けて、ここへ何せえかにせえ」言うて。
- 奥さん
- あの時期やけん、おくどさん付いたんやろ? ガスでなしに。
- ご主人
- いやあ、向こはガスか重油やったかも分からん。
- 奥さん
- 都会やけんガスか。重油は煙突で煙が出るけんの。40年代やけん、もうガスあったで。
- ご主人
- ほれで全部段取りして帰って来たんや。けどちょうどその時、嫁はんがお腹大きなっての。
- 奥さん
- 長男が生まれる前の話や。お腹大きいけん私は「もう行かん」言うたんやけど、その時、うちにちょとこま(少しの間)手伝いに来よったオッサンがおってな。何ヶ月か、練るんかアレするんを習とったんや。いかげん(結構な)年で、うちに来るまでおうどんはしたことなかったけどの。うちでしよるうちに、うどん茹でたり打ったりできるようになっとったけん、その人を推薦したんや。ほなら「行く」言うて、その人が東京へ行くことになったん。けどその人は、あっちでなんか酒飲みで失敗した言よったの。
- ご主人
- 酒飲むけんの。「クビにしてもかまんか?」言うて電話かけて来たんじゃわ。ほんで「代わりに来てくれ」言われたんや。
- 奥さん
- その時に行ったら良かったか悪かったかは分からん。これ、人生の交点じゃわ。大っけなアレじゃの。今で思たらの。行っとったらどなんなっとるか分からん。行たんが成功か、ここに残ったんが成功か、大けな分かれ目なんや。だけどこの人、東京にやよーおらんわ。のーんきなのに(笑)。
- ご主人
- そやけど行たら行たで、うまいこと行ったかどうかは分からん。
- 奥さん
- 誰も分からん。「こんなとこ住めるか」言うて戻っとったかも分からん。
- ご主人
- いや、住めるかいうて、方々見たんやけどな(笑)。
- 奥さん
- 東京の話やのう、誰っちゃ知らんで。
〜平成
ご主人の病気でご近所限定の販売に
- 奥さん
- 最近は、もうえろうなっての。 というのは、コミセン(栗林コミュニティセンター)や小学校の運動会でバザーがあったら、注文がいっぺんに何百も来るやろ。ほんで昼までに届けないかん。運動会は天気がどうのこうのいう関係があるしな。雨で苦労したんや、小学校の運動会。そんなんで最近まで配達も行っきょったんやけど、平成22年にこの人が病気してな。大っけなんは全部やめたん。
- ご主人
- 大けなとこはの。相手もやめたけどの。
- 奥さん
- 相手もすぼんで(しぼんで)しもとるわの。
- ご主人
- 昔は大きな八百屋へ、毎日配達しよったのにの。
- 奥さん
- 八百屋やこしや、跡継ぐんおらんのん。その後はもう近所だけでちびっーとして。もうここら辺の人は、何十年もうちのうどんに慣れとるけんの。ほんで今度、自分の口に合ううどん探すのが大変や。ほんで遠ても行けんだろ。しょっ中食べるんに、そんなに遠いとこは行けんだろ。
それとな。平成22年に火事もいたんや。けどボヤだったけん助かった。こっちに建てた新しい家まで丸焼けになっとったら、また移らないかんとこやった。作業場の窓の向こう手にことでんの線路があろう? 燃えたんはアレの方じゃけに。
そんなんもあって、平成29年の7月の7日でやめた。今思たら、ここでそれこそ何十年も…私でも55年や。結婚してから55年。ほなら心やすい人がの、お祝いくれたん。「何でお祝いしてくれるん?」言うたら、「よー頑張ったけん、お祝いあげる」。3人ぐらいくれたで。うーん。こっちが世話になったけんの。あげないかんのにな。「いや、よー頑張ったけん、ほやけん記念にあげる」て植木くれた。私らより一回り若い子がの、そなん言うての。書状や勲章よりうれしかったわな。
- ご主人
- まあそれぐらいしかない。入院するまでちょっとは覚えとったけど、もうわっせてしもたわ。もう帰りまい(笑)。
1 2
高松市
植田製麺所
うえたせいめんしょ
760-0073
高松市栗林町2-8-11
開業日 昭和20年代
閉店
現在の形態 製麺所
(2018年10月現在)