さぬきうどんのメニュー、風習、出来事の謎を追う さぬきうどんの謎を追え

vol.17 新聞で見る讃岐うどん

新聞で見る讃岐うどん<昭和35年(1960)> 

(取材・文:  記事発掘:萬谷純哉)

  • [nazo]
  • vol: 17
  • 2019.12.09

「値上げ」の昭和35年。麦作は四苦八苦

 昭和35年の日本の政治経済における一大トピックスは、池田勇人内閣がぶち上げた「所得倍増計画」です。関東の太平洋沿岸から九州北部までを結ぶ「太平洋ベルト地帯」に工業地帯を形成する等、数々の経済政策をベースに「経済成長率9%」を目標としたこの大計画は、当初はマスコミ等から「ホラ吹きだ」という声が一斉に挙がっていたようですが、フタを開けてみると大成功を収め、ここから10年足らずで本当に所得倍増が実現することになります。一方、昭和29年に始まったとされる日本の高度経済成長期が一気に加速し始めたこの年は、9月になって新聞に「値上げ」の記事が連日掲載され始めました。その中から、うどんに関わる値上げ記事を抜粋してみます。

香川ではうどん1玉6円から7円に、肉うどん1杯40円から50円に

 まずは、東京の「値上げ」のニュースから。

(9月12日)

全国に波及は必至 めん類、東京で来月から値上げ

 パン、しょう油、みその値上げに次いで、大衆に親しまれているうどん、そば、ラーメンなどめん類(乾麺、生めん類)も来月から値上がりする。そうした原料面の値上がりを見越して、町のそば屋ではすでに25円(東京都下)のカケ、モリがほとんど姿を消し、すでに一部では30円、40円の真新しい値札がぶら下がっている。こうした傾向はすぐ全国的に広がるとみられているだけに、連鎖反応的に起こっている物価高に家計をあずかる主婦にとっては頭痛のタネがまた一つ増えそう。

 東京都下の生めん加工業約300軒の組合員をもつ東京製麺協同組合(曽根原理一理事長)は、このほど原料の小麦粉値上げと人件費の上昇を理由に小売価格の値上げを決めた。うどん、そば、ラーメンの小売価格を現行の1玉当たり(300グラム以上)平均10円を1割アップの11円に値上げし、10月1日から実施する。また、この値上げを機会に全国まちまちの小売り価格を統一しようと、同協組が中心となって全国製麺協同組合連合会を近く創立、全国的な価格調整に乗り出す予定。一方、23県に約2000軒の組合員で構成する全国製麺協同組合連合会(平野孫三郎会長)も体質改善を理由に標準品の小売価格を現行の1束(350グラム)23円を25円に1割弱の値上げ、小麦粉の値上がりする20日以降実施する。

 このように、生めん、乾めんなどめん類加工業界が一斉に値上げに踏み切った理由は、
①主原料である小麦粉が今月の初め、日清製粉の値上げを皮切りに大手4社、さらに一部の中小メーカーが追随して値上げを決定、さらに全国的に波及する模様で、20日から1袋につき上級30円(22キロ入り現行小売価格1100円~1300円)、中級25円(970円~1000円)、下級20円(800円前後)とそれぞれ上がることになった。
②従業員の待遇改善や求人難のため、人件費が大幅に上昇した。
③家内工業的な零細企業が大半で、老朽設備の更新が遅れているが、最近食品衛生の面から設備の改良、近代化が積極的に進められた。
…などから大幅なコスト高を招いたもの。こうした動きに関連して、町のそば屋さんはすでに9月1日から各地区別(東京都)に10円程度値上げしている。いずれにしても、最近の食料品を中心とした消費物価の値上がりは連鎖反応的に巻き起こっており、一方、理髪やクリーニングも値上げを申請しているなど、「物価高」の波は次から次へと押し寄せている。

 「かけそば、もりそばが25円から30円、40円に」ということですから、昭和35年頃の物価は今(2019年)のおよそ10分の1くらいだったようですが、値上げの理由は「原材料の値上がり」「人件費の上昇」「設備投資の増加」と、今も昔も同じです。フルビジネスシステムの“水源”である原材料や燃料費の値上げが発端になって「連鎖反応的に起こる物価高」も同様。原材料が1円上がると、末端の小売レベルでは他の要素も“抱き合わせ”て5円、10円単位の値上げになるのも、飲食店では今も昔も同じ構造です。ただし、当時は「組合が全国的な価格調整に乗り出す」という、自由競争に逆行するようなことが結構行われていたようで、このあたりの「一斉値上げ」の動き方は、消費者目線の世論が厳しくなってきた今より昔の方がひどかったような気もします。

 こうした値上げの動きに対し、香川のジャーナリズム(?)の見解はこんな感じです。

(9月13日)

一日一言

 結構ずくめの新政策で10年先にはウドンゲの花でも咲きそうな池田ブームだというのに、足下から鳥が飛び立つようなめん類の値上げ問題が庶民の夢をゆさぶっている。戦時中、主食の座にのし上がったパンやうどんは、米や麦に不自由しなくなった今でも国民の食生活の中に主食の一部として溶け込んでおり、これらが相次いで値上げを名乗られては、うなぎ上りの肉類をはじめ、みそ、しょう油などの軒なみ値上げ以上に国民生活に不安の影を落とす。

 東京では来月からうどん、そばの値上がりが決まり、地区によっては早くも10円程度値上げしているという。値上げの理由は原料の小麦粉値上げと人件費の上昇によるもののようだが、小売価格が一躍10円もはね上がるとは了解に苦しむ。東京ではそば屋と称し、看板にも「そば、うどん」と書いてうどんよりそばが先行し、関西では逆に「うどん、そば」となってうどん屋の天下だが、どちらにしても大衆に密着している点ではカレーライス食堂の比ではない。若い世代に親しまれているラーメンにしても、三段とびの値上げとなれば文字通り「怒れる若者」が街にあふれよう。

 高松のうどん屋でも、ついに2、3カ月前に40円の肉うどんが50円となった。同じく40円のかしわうどんは据え置きのところをみると、牛肉の値上がりによるもののようだが、これとて10円とは便乗に過ぎるうらみがある。値上げしてもせいぜい5円止まりでよさそうなものだ。小麦粉の値上げは「手打ちうどんの王国」と言われるわが讃岐の国だってよけて通りはすまい。やがて東京に見習ってそこらのうどん屋さんも値上げ札がぶら下がるかも知れぬ。この場合は肉うどん式の便乗は厳につつしんで、うどん玉の値上げに見合うまともな値段とすべきである。これまでの例では、うどん玉の値上げは1個1円は越えてはいないはずだ。ところで、今日は所得倍増の池田さんが高松へ来る。ネギまでしょって来るとは思わぬが、お手のもののカモで讃岐の手打ちうどんでも召し上がれ。ライスカレーとはまた別の味がありますゾ。

 「10年先にはウドンゲの花でも咲きそうな池田ブーム」という表現は年配の方には説明不要だと思いますが、ウドンゲの花は「3000年に一度咲く」と言われますから、池田内閣の打ち出した所得倍増計画に対する一日一言士の「できるわけねーよ」という感情が窺えますね(笑)。でも残念ながら(?)、日本人の「所得倍増」はのちに見事に実現するので、結果的に見立て違いになってしまいました。

 では、ここで出てきた「うどん」の話やデータを見てみましょう。まず、昭和35年時点で香川が「手打ちうどんの王国」と言われていたらしいことが判明しました。「手打ちうどん」という言葉は昭和31年に物産展の「手打ちうどん実演」で登場していますが、この「王国」という表現からすると、この頃すでに香川のうどん店の数もうどんの消費量もおそらく全国一であることを、県も県民も自覚していたのだと思われます。加えて、「40円の肉うどんが50円になった」という、うどんメニューの具体的な値段が出てきました。近年の肉うどんが400円~500円だとすると、これも約60年で10倍くらいになっています。

 さらに値上げ記事は続きます。

(9月25日夕刊、26日朝刊)

生うどん値上げ まず高松から来月1日から

 肉類、野菜など、このところ食料品などの物価値上げの攻勢が活発になっているが、生うどんも10月1日から高松市内で1玉(200グラム)1円引き上げを踏み切ることになった。高松製めん協同組合(高橋繁一理事長)は、150人の組合員がこのほどうどん玉の卸値を1円上げて7円に決めた。実施は10月1日からだが、これにつれて小売値も8円になる。値上げの理由は、20日から小麦粉の値上げ(22キロにつき25円~35円)と、8月1日から保健所の指導で従業員の公休制実施などコスト高によるものだと言っている。なお、県下の他の4都市も高松に同調するものとみられている。

 うどん玉(茹でうどん)の卸値が1玉6円から7円に値上げ。ちなみに今は1玉50円前後の冷凍うどんや茹でうどんがスーパーに並んでいますので、こちらは肉うどんと違って、この60年で10倍までにはなっていないような気がします。うどん玉は、生産技術の向上による合理化の影響で価格の上昇が抑えられているのかもしれません。

(9月27日)

コラム「一日一言」

 お彼岸も昨日で明けて、サンマの秋、マツタケの秋へ季節は急ピッチで突入するが、高松市内では問題のうどん玉が、いよいよ来月1日から値上げされることになった。これは高松製めん協同組合で決められたものだが、県下の他の4市も値上げに同調するものと見られている。原料の小麦粉が1袋(22キロ入り)25円ないし35円当たりはね上がったのが値上げの主な原因だが、人件費の上昇なども含まれているらしい。玉1つについて卸値は6円から7円へ、小売りは7円から8円へ、わずか1円の値上げといっても、主食の親類のようなうどん玉のことだから、台所への刺激は決して小さいとは申せぬ。

 うどん屋さんも玉が上がればそれだけもうけが減るわけだから、分量を減らすか、質を落とすかしなければ、値上げの方で手を打つかもしれない。そうなると、うどん玉に応じて1円値上げなどという小刻みな芸当はやれそうもないから、5円は上げるだろう。弁当代わりにうどん屋のやっかいになっている勤労者も少なくないが、値上げされてまずノビるのはこの階級ということになる。讃岐の農家では、もちに続いての“一装用”食品はうどんだ。祝い事といってはうどんを打ってもてなすのが習慣のようだが、原料の小麦粉はお手のものだから、農家にとっては小麦粉の値上げは痛くもかゆくもなかろう。

 ところで、南条農相は小麦粉の値上げを撤回するよう、近く日清製粉など4大メーカーへ警告するそうだ。業者への小麦払下げ価格はここ数年上がっておらず、小麦粉の末端消費価格の安定を考えて今年の米価審議会でも払い下げ価格を据置いた手前もあるのに、勝手に値上げされて消費物資値上げ秋の陣のトップを切られては、いかに大資本に甘い政府といえども黙視するわけにはいくまい。しかも、製粉業界で独占的な地位を占めている4大メーカーの一斉値上げには、多分に独禁法に触れる疑いがあるとして重視している。うどん玉のわずか1円の値上げの背後にも、大企業のどん欲な“所得倍増”の夢がとぐろを巻いていることを、正直者はとかく見落とし勝ちのようだ。

 「四大メーカーの小麦粉一斉値上げ」は「独禁法に触れる疑いがある」という批判的な見方がされていますが、「組合のうどん玉一斉値上げ」は特に問題視されません。さらに、「組合の1円の値上げも大企業のどん欲な所得倍増の企みのせいだ」とあるように、いつの世も「大企業の横暴」という結論は“鉄板のまとめ”です(笑)。

(9月29日)

近く5円程度値上げ 高松の飲食店のうどん、そば

 生うどんの値上げにつれて、高松市内の飲食店が近くうどんやそばなどを5円程度一斉に値上げする。高松市飲食業組合(鈴木英男理事長、組合員270人)ではこのほど、役員会の申し合わせとして各組合員の店舗にうどんやそばなどめん類食品の値上げを行う旨のビラを配布したが、値上げの理由は先に高松めん類協同組合が生うどんの値上げ(1玉1円値上げ)を10月1日から実施すると発表したのがきっかけとなり、さらに最近しょう油その他の値上がりがこれに拍車をかけたもので、値上げの巾は今のところ組合として一律に決めず、またその時期も各店の自由にまかせ、ただ値上げがやむを得ないものだということを書いたビラを店内に掲げるようにしているが、値上げの幅はほぼ5円程度となるものと見られている。

  製麺組合加盟店のうどんの玉売りは「製麺組合が玉の卸値の値上げを決定した」とありましたから自由競争ではなく談合的に行われていたようですが、飲食業組合は「値上げがやむを得ない」というビラは出したものの値上げ幅は「各店の自由」としていますから、こちらは基本的に自由競争。このあたりは組合の在り方の違いですね。以上、昭和35年の値上げ騒動でした。

物産展で「うどん手打ち実演」が大人気

 続いて、東京日本橋三越本店で「四国の観光と物産展」が開催され、「うどん手打ち実演」が大好評だったという記事。

(9月1日夕刊、2日朝刊)

東京の四国観光と物産展出品者募集 県商工観光課

 「四国の観光と物産展」が東京日本橋三越本店7階で10月18日から23日まで開かれるので、香川県商工観光課では出品者を募集している。この「観光と物産展」は四国4県と日本観光協会四国支部の共催。会場には四国巡礼、観光写真を展示、観光映画や民謡紹介のアトラクションを催し、物産は1県あたり14コマを割り当てて、うどんの製造実演などローカル色豊かな物産を披露する。9月20日までに県商工観光課に申し込むとよい。

(10月19日)

観光と物産展

 第9回「四国の観光と物産展」が18日から23日まで東京日本橋三越本店で開催され、人気を集めている。香川県からもてんぷらから民謡レコードまでいろいろ出品しているが、中でも一刀彫り、タイの浜焼き、手打ちうどん製造の実演の前は黒山の人だかりで、毎年県から応援に来ている県庁職員の話でも前年よりはるかによく売れているとのこと。午前中、宮中で行われた献穀の儀に出席した金子県知事も昼過ぎ「こんぴら舟々」のメロディーが流れる会場に姿を見せ、係員、実演者を激励して回った。隣り合わせの三越劇場の舞台では「一合まいた」「こんぴら舟々」「讃岐小唄」の歌と踊りが披露され、その合間に他の3県のバスガイド嬢とともに琴電バスの岡島静子さんが高松~屋島~琴平間のガイド説明をしたり、国鉄四国支社製作の観光映画「美しき四国」を上映するなど、四国のお国自慢をふんだんに都民の目にかけた。

農村副業展示会

 一方、横浜では全国の農村工業副業品を一堂に集め、貿易関係者や一般消費者に紹介する第14回「全国農村工業副業品輸出振興展示会」が、農林省などの主催でシルクセンター国際貿易観光会館で17日から開催されている。北は北海道の木彫りの熊から南は鹿児島の竹のれんまで、それぞれ郷土色豊かな食料品、天産物、繊維類、雑貨などおよそ2300点が出品されているが、香川県からはオリーブのかす漬け、クリの甘露煮、造花、あじろ盆、たこ、はりこなど30種類が出され、注目を集めている。

 「四国の観光と物産展」と「農村副業展示会」はこれまでに何度も新聞記事になっていたように、当時の県産品を全国にPRする代表的催し物だったようです。ただし、新聞記事を見る限り、いつ始まったか(第1回の開催年)がよくわかりません。例えば、「四国の観光と物産展」はここ(昭和35年)に「第9回」とあり、「前年よりはるかに売れている」と書かれているので1年前の昭和34年に第8回が開催されたことになるのですが、実は昭和31年の四国新聞に「第8回四国の観光と物産展が開催された」と書かれていて、明らかに回数が合わない。また、「農村副業展示会」もこの年が「第14回」とあり、毎年1回開催であれば戦後すぐの昭和21年に始まったことになるのですが、これも昭和28年の記事に「第3回」と書かれていて、そちらは昭和23年に始まったことになる。年に複数回開催した年があったのかもしれませんが、ちょっと記事が曖昧な感じがします。

 ということで、とりあえずここまでの概況として、
(1)昭和20年代中盤あたりから「四国の観光と物産展」と「農村副業展示会」が毎年のように開催されてきた。
(2)昭和31年に初めて「物産展会場で手打ちうどんの実演が行われる」という記事が出てきた。
(3)しかしここまで、「会場でおみやげ(持ち帰り)用のうどんが販売された」という記事は一切出てこない。
とまとめておきましょう(いずれも詳しくは過去の記事参照)。

巷の話題2選

 あと、うどん関連ではこんな記事が見つかりました。

(12月5日)

新製品「うどんシャクシ」

 寒くなるにつれて、家庭でもうどん、そばが喜ばれるようになりますが、そんな時、「うどんシャクシ」があれば便利です。普通のお玉ですと、お汁ばかりでなかなかうどんはすくえませんが、「うどんシャクシ」ですと、4枚の歯でうまくすくうことができます。アルマイト製で75円。(高松・三越調べ)

 普通のお玉の掬う部分の左サイドに4本の突起が付いているお玉です。スプーンの先端に3つの突起が付いた「先割れスプーン」というのがありますが、この「うどんシャクシ」は、言わば「横割れお玉」です(笑)。でも、あまり定着しなかったようです。

(11月24日)

飲食店に庖丁持った強盗 綾歌町で刑務所出た男 4時間後、格闘、逮捕

 23日深夜、琴平街道ワキの飲食店に大胆な強盗が押し入り、現金500円余を奪った末、雑誌を読みふけり、ゆうゆうと逃げたが、近くの交通検問所で仮眠中を刑事にみつかり、格闘の末つかまった。

 23日午前零時すぎ、綾歌郡綾歌町栗熊東、飲食店○○○○こと○○○○○さん(42)方浴場脱衣場の小窓から若い男が押し入り、○○○さんに刺身包丁を突きつけ「金を出せ」とおどし、細ヒモで両手をしばって現金505円とウドン玉4つを奪った。さらに賊は腰をすえ雑誌“平凡”を読んでから「二、三日中に自首する」と捨てゼリフを残して逃げた。

 届け出を受けた綾南署は直ちに張り込んだが、同朝4時すぎ、綾歌町渡池三差路近くの綾南署の交通検問所にひそんでいた怪しい男を同署○○部長刑事がみつけた。男は刺身庖丁で切りかかり、同部長刑事は警棒で応戦、格闘の末、この男を強盗などの疑いで逮捕した。この男は丸亀市今津町生まれ、強盗など前科四犯、○○○○(27)といい、さる18日に徳島刑務所を満期出所したことがわかった。○○は現金800円を持って高松へ来たが金がなくなり、22日午後5時すぎ、高松市桜町の琴電栗林公園駅前で刺身庖丁を買い、押し入る家を物色しながら琴平街道を歩いて行く途中だった。

 ただの強盗事件ですが、「ウドン玉4つを奪った」というところに「他にも盗るものがあっただろうに、現金以外にうどん玉だけかよ」と突っ込んでみました(笑)。ま、腹が減っていたんでしょう。あと、「深夜0時過ぎに家にうどん玉(おそらく茹でうどん)が4つあった」という生活習慣を無理やり深読みしようとしてみましたが、どうでしょう(笑)。

風雲急を告げる麦作事情

 さて、この年は「麦作」の動向を不安視する記事がかなり目立ちました。まず、1月に当時の麦作の概況に対する長めの評論が載っていましたので、小分けにして見ていきましょう。

(1月24日)

郷土を診断する「農業の巻/麦作」 やむを得ず飼料に 酪農とかみ合わせた営農へ 唯一の頼みは価格保証

 ある農家の人に「近ごろ農家の人たちはどのぐらい麦飯を食べているだろうか」と水を向けたら、「うちの部落でも数えるぐらいだろう。第一、麦を食わなくなっても米をふんだんに持っていますよ」との話。あるいはそうかも知れない。最近の県内の麦消費のデータがないので、いささか古いが27年(農林省香川統計調査事務所の冬作総合実態調べ)の県民1人当たり年間麦消費量をみると、米の0.15トン(1石)に対して小麦36キロ、裸麦79キロとなっている。それでも全国平均消費(小麦23キロ、裸麦24キロ)に比べると、県民はよほど麦飯を食っていたらしい。だが、それから7年を経過した現在、麦飯階層がぐっと減っていることは動かせない事実のようだ。

 評論記事の導入で「麦の消費量がかなり減っている」という話が挙げられていますが、ここに挙げられているデータは「昭和27年時点で、香川県民は全国平均を大きく上回る量の麦を食べていた(小麦は全国平均の1.6倍、裸麦は同3.3倍)」というものだけで、その7年後に「ある農家の人」に聞いた「うちの部落では数えるぐらいしか麦飯を食べていない」というコメント一つで「麦飯階層がぐっと減っていることは動かせない事実のようだ」という結論に持っていっているという、今でもどこかの新聞がよくやっている「一人の話を社会現象のように扱って論陣を張る」という少々危うい記事です(笑)。しかしとにかく、「麦の消費量が減っている」という前提で評論は進みます。

 33年の県産麦は8万5800トン(小麦2万8500トン、裸麦5万7300トン=農林省調べ)で、このうち5万7000トン(38万石)の裸麦、小麦を政府へ売り渡している。かつて麦をヘソくりにしていた主婦も、今はたとえ持っていても牛か鶏のエサにするぐらいで、あまり換金の対象にならないというので、すっかり政府売り渡しにした農家もずいぶんあるらしい。1俵2000円そこそこの麦価でも、換金しなければ麦作りは引き合わないというわけだ。とにかく、全国的に裸麦の消費はずっと減り、政府の委託倉庫は豊作の米とかち合って満腹の状態。政府は1俵につき裸麦505円、小麦で約400円を外麦のサヤ寄せとして、農家保護のため87億円もの食管支出にあえいでいるが、反面、集荷にあたる農協は倉庫代の収入が相当の額にのぼっているといわれる。

 このあたりはちょっとわかりにくい記事ですが、要するに、
①外麦(外国からの輸入麦)が1俵1500円ぐらいで出回っているが、日本の麦作は外麦より生産コストが高くつく(外国の麦の方が安い)ので、日本の農家は1俵1500円で売ったのでは赤字になる。
②そこで政府は日本の農家を保護するため、農家から麦を1俵2000円ぐらいで買い上げ、市場へは外麦と同じくらいの1俵1500円ぐらいで出している(その値段にしないと売れないので)。その結果、1俵につき500円くらいの持ち出しになり(記事では裸麦1俵につき505円の持ち出し)、年間「87億円もの食管支出」になって「あえいでいる」。
③農家は政府買い上げの1俵2000円ではほとんど儲けにならないが、持っていても売れなくて牛か鶏の餌にするしかないので「その値段で全部政府に売る方がマシだ」という話になってきている(おそらくかつては政府買い上げ価格より高く売れるルートが機能していたため、そっちに回して「麦をヘソくりにしていた主婦」がいたのでしょう)。
④一方、全国の裸麦の消費量が減ってきたため、倉庫(おそらく農協等の倉庫への委託)に政府の買い上げた麦が溢れていて、農協は倉庫の賃料で収入が相当額に増えている。
…という図式でしょう。さらに記事は続きます。

 麦飯の話のついでに、裸麦の精白から黒い穀条(俗に「ふんどし」)を取り去ったものが登場、押し麦とともに「うまい讃岐麦」と銘打って宣伝これつとめたこともある。しかし、人間が麦をあまり食べなくなれば、飼料にするより仕方ない。「これからの麦作農家は、3分の2ぐらいをエサにする構えで営農の仕組みを変えなければなるまい。外麦輸入の関係で、まだ麦価は安くなることを覚悟しなければならないだろう」――これは県経済農協連の話である。

 麦の統制から自由販売への一つのトメ金は、すでに外れている。なんとか支えている価格保証というもう一つのトメ金が外れたら、それこそ全国一の品質と麦作技術を誇っていた香川の麦作も、ガタガタに崩れかねない。そうでなくてさえ、麦の平均収量はだんだん落ちている。農林統計表をめくってみると、県内小麦の10アール当たり平均収量は、17年が250キロ(1.82石)、終戦の年(20年)はさすがにぐっと落ちて229キロ(1.67石)、30年にはまた伸びて306キロ(2.23石)までになったが、これから下り坂となり、34年産では昭和17年なみの247キロまで下がっている。これはなぜだろうか。米に比べて投下生産費にしろ労力にしろ大差がないのに、報酬は少ない麦作にそろそろ見切りをつけていることの現われであろう。

 試みに、麦10アール当たりの投下労働力(農林省調べ、32年)を米と比べてみよう。香川の場合、米が延べ26人、小麦23人、裸麦は米とすれすれの25人。全国平均の米24人、小麦15人、裸麦20人を思い合わすと格段の相違で、コスト高を物語っている。それでは、今後の麦作はどうすればいいのだろうか。都市近郊では特産野菜やビートが話題になっている。ビートは企業化までには5000ヘクタールが必要だといわれるが、酪農とかみ合わせた営農改善は、これまでの試験結果から相当期待がかけられているようだ。しかし、一挙に麦作から転換できるほど有利な作物がなければ、機械化によってうんと労力を省き、その余剰労働力を他に振り向けるよりほかに道があるまい。現に、無整地の省力栽培というのがぼつぼつ取り上げられている(農林省香川統計事務所の話)。とにかく「麦作の前途は明るくない」というのが共通の意見であり、農政の問題点ともなっている。

 というわけで、「麦作の前途は暗い」「農家は麦作に見切りを付けつつある」というのが、昭和35年の年頭における新聞の見解です。これを踏まえて、4月以降に10数本も出てきた麦作関連の記事を順次見て行きましょう。

(3月20日)

麦の穗出そろう 池田町 昨年より12日早い

 はや麦の穂が出そろった。香川県小豆郡蒲生、武田柳平さんが7アールにわたって栽培している麦(早生の香川裸)が1週間前から出穂をはじめ、出そろった。昨年より12~13日も早いという。これについて武田さんは「雨が降らず、カラがのびていないが、平年に比べ暖いので、早く穂が出たのでしょう。でも、実入りは悪いかもしれません」と話している。

 麦作に逆風が吹いている中、この年の裸麦は「実入りが悪い」という見立てです。

(4月19日)

裸麦 売れ行きさっぱり 倉庫に眠る昨年産52万俵

 香川県下の34年産の裸麦は72万俵が政府に買い上げられたが、このところ麦は売れ行き不振で、県がまとめたところによると、3月末でこのうち72%、52万俵が売れ残って倉庫に眠っている。このままいけば、新麦出回り期には倉庫が足りないと心配されている。

 34年度は県下で裸麦は2万4000ヘクタール、小麦は1万2000ヘクタールに栽培され、小麦は25万俵の政府売り渡しのうち10万俵が残っているものの、これについては問題はない。だが、裸麦は先行き不安である。食糧事情がよくなって食生活も向上し、食糧としての裸麦は脱落した格好である。補助政策をとっても安い麦価には農家は魅力を感じないといったところであるが、代替作物の決め手のないまま栽培を続けている。加えて、全国的にも屈指の麦生産県といわれる香川にとって「香川裸1号」が色が黒いといった理由で消費者に好まれないということもある。こうして、72万俵のうち52万俵がまだ倉庫に積まれたままとなっている。

 県下の倉庫の収容力は200万俵。これでいくと、農協倉庫、営業倉庫の4分の1が裸麦で占められているわけで、新麦出回り期の6月にもし売れ行きが悪ければ、業務に差し支えることになる。35年度も裸麦2、小麦1の割合で栽培されているので、今から早急な解決策は望めない。県でも麦対策は真剣に考えなければならぬ時期にきているが、これが全国的な傾向であるため、政府、農林省に訴えない限り解決は望めそうにない。他の作物への転換についても決定打はなく、小麦への転換が手っとり早いとされているが、小麦となると収量は10%ほど減り、熟期も遅く、最近のように稲の作付けが早くなってくると具合が悪い。それに、早くとれる小麦の品種育成はこれから数年かかるといわれ、麦についてはお手上げの形である。

 記事によると香川の麦の作付け面積は「裸麦2、小麦1」の割合とありますから、昭和35年時点で香川の麦作における小麦率は約33%ということになります。『戦後日本の小麦生産の地域的展開』という資料によると「昭和35年の四国の麦作における裸麦と小麦の比率は裸麦79%、小麦21%(全国で最低)」とあり、そこから「香川も麦作の8割が裸麦(大麦)で小麦は2割ぐらいだったのではないか」というコメントをつけましたが(「昭和20年」参照)、この記事の通り33%だとすれば、香川は四国平均よりかなり高かったようです。しかし、それでも全国平均の「42%」よりかなり低い数字です。

 ちなみに、2019年に放送されたNHKの『新日本風土記』で讃岐うどんの歴史が紹介されていて、その中で昭和30年代の香川について「米だけに頼れない生活を支える大切な小麦。小麦をおいしく食べることが、この土地(香川)で生きることでした」というナレーションが付いていましたが、上記の数字を見ると当時の香川の「米」の代替は断然「裸麦」であり、少なくとも「小麦」ではありませんでした。しかしいずれにしろ、香川の裸麦の生産については逆風が吹き始めて「お手上げの形」になってきた、との評論です。

(6月15日)

等外麦も買い上げを 農業4団体 食糧事務所へ要望

 香川県農業4団体(農業会議、農協中央会、経済農協連、信用農協連)は14日、代表者が農林省香川食糧事務所を訪ね、今年の産麦は予想外に品質が悪いので前年産と同じように「等外上」の政府買上げに応じてもらいたいと、文書で要望した。これに対して同所長は「ご主旨は十分中央へ伝えて努力したい」と応えた。

 県下の麦不作はこのところ天候不順のため毎年収量減と不良品質に悩まされているようで、今年も収量はまず平年並みとみられながら、実入りが一般に悪く、農業団体側の調査によると、予想収量約100万俵のうち、2割相当20万俵が政府買入れ(1~4等)から外され、等外になる心配がある。このままでは売れない手持ち麦を抱えた農家所得に大きく響き、ぜひ「等外上」を特例措置として、前年並に買い上げてほしいというもの。なお、この陳情は20日過ぎに行われる米価審議会前にも代表者が大挙して食糧庁へ陳情団を繰り出し、実現を期することになった。

 「出来が悪いけど前年並みの値段で買い上げて欲しい」という、正常なマーケットではあり得ない陳情ですが(笑)、それが当たり前のように行われていたのがかつての農政と農業団体の関係でした(今もあるのかもしれませんが)。そんな状況下、農政は「麦作をはじめとする農業経営の合理化策」を打ち出します。

(6月22日)

麦作合理化 県の方針決まる 機械化で労力節約 農業経営、総合的に考える

 香川県では21日、県庁に県事務所、5市の農林課長、その他普及所の関係者を集め、麦生産合理化対策打ち合わせ会を開き、さきに農林省が決めた合理化3カ年計画について県の基本方針を決めた。県下の麦の生産コスト高は労力をかけすぎているからで、そこで麦栽培の機械化を進め、またそれによって生じた余剰労力については、これを他の部門に回し、単に麦だけでなく、農業経営全般の合理化を目指すことになった。

 麦の生産合理化は農林省の方針によれば、3カ年で900セットのパイロット部落を設け、機械化による合理化を進め、これをモデルに全農家に技術普及を推し進めるが、35年度には全国で234セット、うち香川県は9セットを設けることになっている。1セット20戸、10ヘクタール以上ということになっており、このパイロット部落に指定されると、ミスト、施肥、播種機、耕運機、刈り取り機などの機械のうち、どれでも国の補助(1セット当たり24万5000円)で機械時導入ができる。これらの運営についてはかったわけで、結局、麦だけでなく、香川県独自の考え方として麦を含めた農業経営全般の合理化をはかることになった。

 県下の麦の生産コストをみると、ハダカ麦で10アール当たり1万8444円、そのうち8958円が労力となっている。投下労働時間は199百時間、外国産となると、わずか20時間前後である。だから、これらの機械化と合わせ、県としてはまき方をドリルまき、多株穴まきに切り替えて指導する一方、機械化によって余った時間は酪農、園芸、果樹、高級野菜などの栽培にふり向けるようにし、総合的な合理化を目指す。そして、貿易自由化への対策もかみ合わせる。なお、県下のパイロット部落の指定は近く協議して決めることにしている。

 農作業の機械化のパイロット部落(モデル地区)を設け、パイロット部落には「ミスト、施肥、播種機、耕運機、刈り取り機等の購入に補助金が出る」という施策です。「耕運機も刈り取り機もなかったのか」と思うかもしれませんが、筆者の家(詫間町)では、昭和35年時点では間違いなく「牛」を使って田畑を耕していましたし、稲や麦の刈り取りは全て手作業でした。しかし、記事中にある外国産との投下労働時間の桁違いの差を見ると、この程度の機械化ではとても外麦と戦えるレベルの話ではなく、せいぜい「年間87億円もの食管支出」を少し減らす程度の効果しか見込めそうにありません。

(7月27日)

麦作めぐる諸問題 合理的管理制度を 生産意欲高める諸対策

 本年度産麦もまた豊作であった。そして、6月末の米価審議会は政府の買い入れ価格と標準売り渡し価格について審議した結果、「諮問価格はやむをえないものと認める」という要旨の答申を行なった。これで本年度産麦についての問題は一応の峠は越えた。しかし、わが国の「麦の問題」がこれで解決したとは言えず、根本的解決は今後に残され、いよいよ麦問題は切迫しつつあると言わざるを得ない。それは、米審の麦価についての答申に際して行なった付帯事項3項目に端的に表現されている。すなわち、麦価の基準を決めただけでは問題解決にはならず、これからの麦の生産対策と管理制度、麦類の消費拡大に対して積極的な対策を強く推し進めない限り、麦作はいよいよ苦境に陥り、そのことがひいては日本農業全体の進展を阻害する恐れもある。

 毎年、麦の価格決定に次いで米価が審議され、米価審議の方が広く国民一般からも注目され、また生産者も最も関心を寄せる結果、曲がりなりにも米価が決まると、やれやれという気分が一般にみなぎって、いつの間にか麦の問題が見逃されてしまう。そのため、問題解決が一年延ばしに先へ追いやられてきた。けれども、これ以上根本的な対策を講じないでいては、どうにも手の打てないところに追い込まれてしまう恐れがある。

 麦をめぐる諸問題は、関係する立場でその現れ方は違っている。その主要なものを点描すれば、第一に、政府は今日までの管理制度を続ける限り、いわゆる逆ザヤ売買による赤字の拡大化は避けられない。と同時に、政府在庫も増加の一方で、すでに10万トンを上回る状況になった。今年の豊作を考えると、来年4月には100万トンに達するのではないかと予想されている。第二は、生産者側の麦作収入減の問題である。現在の法定価格制度下でパリティ係数の微増した今年は価格はわずかに上昇したが、これでも麦作はほとんど収益をもたらさない。生産費調査が示すとおり、麦作収益は赤字が多い。ただ、冬作として他に収益機会が少ない現状では、手取り現金が少しでもあれば麦を作るより仕方がないので作っているという農家が多い。したがって、麦作合理化への意欲も一般に低い。ただ、作りさえすれば政府が買ってくれるというので、習慣的に麦作をやっているとも言えよう。その結果、各単協の倉庫は一杯になってしまう。

 こうして、麦作では農民も政府も泥沼に足を入れたような悪循環に陥っている。このような事態になった最大の問題点は、麦の需要に対して生産費が高すぎることと、麦類、とくに大・裸麦の需要の相対的減少ということにある。したがって、麦問題は第一に「生産の合理化」を耕作者が自主的に行わざるを得ない条件を作ることと、その場合に工作者の要求に十分応えられる準備を政府が持っていることの2点である。さらに小麦(国内産軟質小麦)の消費拡大と、大・裸麦の飼料化の促進という麦類需要の合理的開拓を計画的にかなり強力に遂行することであろう。さらに、麦作に対する根本的な考え方、すなわち麦作は日本の冬作物の中の一群の作物であり、問題を麦および麦作だけに限って解決しようと考えず、冬作期の農業的利用の一手段として扱い、在来の実取り麦作に代替するもの、あるいは方法は何か、といった問題提起をして、冬作体系全体の中で考えていく、という考え方を広く農業者に普及させる努力を欠いてはならないであろう。

 あれ? 6月15日付けで「今年の産麦は収量は平年並みと見られるが実入りが悪く、品質も悪い」と書かれたばかりなのに、7月27日の記事はいきなり冒頭で「本年度産麦もまた豊作」って、どういうことなの(笑)。しかしとりあえず、この年の麦は実入りも品質も悪かろうが「諮問価格はやむをえない」、つまり陳情通りの価格で買い上げられたようです。で、「農民も政府も泥沼に足を入れたような悪循環に陥っている」とのこと。問題を先送りしているだけだから、当然そうなるわけですが…。

(8月10日)

意外に多い麦食農家 県、栄養改善へ主食調べ “米食だけ”は13% 栄養知識普及明らか

 香川県では農家の栄養改善の資料とするため、農家がどの程度麦を食べているか、さきに農家の主食調査を行なったが、その結果が9日にまとまった。これによると、豊作続きの農家はそのほとんどが米食一本ヤリではないかとの予想に反して、米食オンリーは調査戸数のわずか12.9%。農家は栄養面も考えに入れて、堅実な暮らしというところ。

 この調査は、県下19生活改善普及所ごとに1普及所30戸の割合で、生活改善クラブに加入している農家を抽出して調べた。データによると「米食オンリー」と答えたものはもっとも少ない全体の12.9%、次いで多かったのが「お米と裸麦の混用」で、全体の18.4%。「お米と裸麦以外のもの」、たとえば「お米とうどん、お米とだんご、お米とソバ」というのは29.6%、お米に裸麦、イモなどを適当にかみ合わせて食べているもの39.1%という結果が出た。

 これで結論として、裸麦を食べている農家は約半数を占め、広く麦を食べている農家ということになると、87.1%までが麦を食べていることになる。また、裸麦と米の混炊の場合、「どのくらい混ぜているか」では平均すると混合率は28%、大体米7、麦3の割合となっている。押し麦か丸麦かでは、ほとんどが押し麦を食べている。

 このほか、1人当たりの主食の量は最高が671グラムでおよそ4合といった具合。そうそう腹いっぱいという主義でもない。もっとも、この調査は考えの進んだ生活改善クラブ加入の農家を対象にしているから、一般農家との間にはかなりな開きがあると県ではみているが、生活改善の普及でだんだん農家に栄養の知識が浸透している結果だとしている。このほか、「経済的な理由でなるべく麦を食べる習慣が残っている」という理由もある。ともかく農家で精白した米を食べる場合、一般の配給米と違って農家ではハイ芽がほとんどとれてしまっているものを食べるから、消化不良から胃病が多く出、また栄養のアンバランスもあるので、県では今後も「飽食主義」から「粉食を取り入れた栄養主義」へ強く指導を進めることにしている。

 あれ? この項の冒頭で「麦の消費量が減っている」という大前提が叫ばれていたのに、今度は「農家で麦がずいぶん食べられている」という論調ですよ(笑)。

(8月16日)

高松など9市町村 麦の省力栽培 パイロット部落指定

 麦作不振の打開のため、香川県では36年産麦から2000ヘクタールの省力栽培を普及、「儲かる麦」への転換をはかるが、この省力栽培のパイロット部落を設置する9つの指定市町村が農林省で決まったと15日、農林省から県に通知があった。指定に入った市町村は、大川郡長尾町、木田郡三木町、綾歌郡飯山町、仲多度郡満濃町、三豊郡高瀬町、観音寺市、丸亀市、坂出市、高松市。パイロット部落はこれらの市町村と県との話し合いで決定するが、いずれも各市町村1部落ずつ設置されることになっている。

 パイロット部落の設置基準は、戸数約20戸、麦の省力栽培が10ヘクタール以上に及ぶところ。それぞれ部落には25万円ずつの国庫補助があり、乾燥機、耕運機、ミストなどを含め施肥、八種機から刈り取り機まで共同で1セット(48万6000円)の機材をそろえ、省力栽培のパイロットとしての役割を果たす。この省力栽培は小麦を主体にやるもので、県の狙いとしては、小麦の栽培にかける労力176時間を約半分の90時間以内に抑え、しかも20%の増収をはかろうという。加えて余った労力を他の家畜導入、養鶏、果樹、花、野菜などに振り向けるよう指導していく方針で、麦だけでもこれまでの4600円(10アールあたり)の赤字をなくし、反対に5000円あまりの黒字を生み出そうという。そして、省力栽培の浸透で間接的には裸麦から小麦への転換をはかる。県では、ゆくゆくは省力栽培が耕作面積3万6000ヘクタールのうちおよそ2万ヘクタールに及ぶとみている。なお、パイロット部落の設置については17日、県と関係市町村で個別に折衝する。

 それでもとにかく、麦作の省力化を目指した「パイロット部落」が指定されました。対象は麦作の主流の裸麦ではなく、マイナーな小麦を主体にした取り組みで、「間接的に裸麦から小麦への転換をはかる」という狙いがあるようです。

(8月26日)

腰をすえるハダカ麦 県の倉庫 予約米あふれる恐れ

 このところ麦は売れ行き不振で、7月末現在で香川県がまとめたところによると、古麦(34年産)はハダカ麦で1万8634トン、小麦で740トン、しめて1万9374トンが倉庫に眠っており、これは昨年同期の在庫7393トンに比べ、1万1981トン多く、在庫は前年のざっと2倍半というところ。小麦はともかく、ハダカ麦は最近需要が減り、精麦業者の買い受けも低下してきているので、とかくたまる一方といった傾向をたどっている。

 これに加えて、新麦(35年産)がハダカ麦で4万5925トン、小麦で1万9882トン、計6万5807トンがどっと買い上げられ、倉庫に送り込まれたため、かなりな膨らみを見せてきた。これに35年産米の収穫があり、この買い上げが始まると、指定業者の倉庫も含め11万7000トンの収容能力がある県下の倉庫もぎっしりというわけで、およそ1万トンぐらいは他の営業倉庫を借りなければならないという。古麦、新麦合わせて7月末現在では8万5181トンの在庫というわけだが、12月末までに麦がはける見通しは1万2000トン程度。10月末から本格化する米の政府買い上げで、当初からおよそ1万3000トンを県外の需要に回したとしても、6年続きの豊作で政府売り渡し予約の予定数量6万4000トンを上回る米がどっと送り込まれると、ピークにはどうしても1万トン程度が倉庫からはみ出す勘定。月末に米の受給調整会議が県など各関係機関が集まって開かれるが、どうしても売れない麦は悩みのタネとなっている。

 裸麦は依然として売れ行き不振で、倉庫には在庫がたまる一方です。

(9月5日)

麦作転換を中心に 県農協中央会 営農改善を協議

 県農協中央会は20日(予定)、郡市農協同僚会長会議を開いて麦作転換を中心とした今後の営農改善を協議する。麦価が今のままで採算がとれず、それかといってこれに代わる有望な転換作物も見当たらず、論議はすでにカベに突き当たっているといわれる。しかしこのままでは農家経済にヒビが入るので、なんとか活路を開こうというもの。

 県農協中央会の話によると、県は「麦の省力栽培」という方針を打ち出しているが、もっともな改善策に違いないとしても、いったい余剰労力のハケ口をどこにどう求めるか、そこまで突っ込んでいない。そこで、農林省の麦作奨励方針だという小麦作に替えるためには、まず裸麦より安い小麦の価格改定を政治問題として一層強く要望すると言っている。一方、代作はビートがまだ伸び悩み、その他の園芸作物にしろ飼料作物にしろ、むやみな作付けはできず、これらの計画栽培を今後の貿易自由化とニラミあわせてどう調整するかにかかっているようだ。特に本県のような畑地の改善は平地が少なく階段畑が多いため、園芸作物の転作など干害対策を前提としなければ容易に解決できそうにないので、これら抜本的な施策をもっと県側にも考えてもらおうと言っている。

 やはり裸麦は、明らかに「見放されつつある」という局面ですね。その代案は「小麦への転作」と「麦以外への転作」ですが、ビートも園芸作物も飼料作物も状況は芳しくないようで…。

(9月8日)

麦作に“省力栽培” 県、実施計画まとまる 余剰労力で多角経営

 不振の麦作を「儲かる麦作」に転換するため、香川県では36年産麦から省力栽培の普及をはかるが、県では農林省と協議の結果、7日、省力栽培のパイロット部落の実施計画をまとめた。県下9市町村の9つの部落で先進モデル部落を設置するわけだが、計画によると、9部落で総農家戸数は253戸、面積104.9ヘクタールにわたって栽培を行ない、事業費は492万1000円(半額国庫補助)となっている。これによって生まれた余剰労力をマッシュルーム、養鶏などに向けて多角経営を強化、麦の増産と合わせ、これらの経営で農家経済の安定をはかる。

 省力栽培は機械で種まきから刈り取りをやるのが主眼で、この主役をつとめる機械、ドリルシーダー16台、動力多株穴まき機4台、人力多株穴まき機17台、ミスト5台、乾燥機7台、動力刈り取り機3台を購入する。そして部落で共同作業を行なう。栽培面積104.9ヘクタールの内訳は、ドリルまき55.5ヘクタール、多株まき24.2ヘクタール、ドリルと穴まき併用23ヘクタール、全層まき2.2ヘクタールとなっている。

 また、もう一つの省力栽培の大きな狙いは、機械が生み出す余剰労力を他の経営にふり向けるということ。このため、たとえば坂出市の場合はパイロット部落に指定された林田町中川原部落(23戸)が、その余力をマッシュルーム栽培、養豚、促成野菜栽培にあてる。マッシュルームはこの部落で165平方メートルに栽培されていたのを500平方㍍に増やし、豚は20頭から30頭へ、トマトは20アールから50アールへ、イチゴは50アールから1.2ヘクタールに増反、多角経営の強化をはかる。

 仲多度郡満濃町の場合は、四条本村部落(25戸)が、現在1000羽飼っている鶏を2000羽に増やし、豚も12頭から24頭へ、たばこは25アールから50アールにして、跡作には暖地ビートも取り入れる。マッシュルームは1000平方メートルを1200平方メートルに増やすといった具合で、麦作安定と多角経営での成果に大いに期待がかけられる。県ではこれらパイロット部落のあり方については指導班を編成して施策を進めるが、36年産麦はこれらパイロット部落を中心に省力栽培2000ヘクタールの普及を目指している。なお、パイロット部落は次のとおり決まった。
▽高松市鶴尾町上天神
▽坂出市林田町中川原
▽丸亀市飯野町中川原
▽観音寺市常盤町出作
▽木田郡三木町平井鹿伏東
▽仲多度郡満濃町四条本村
▽三豊郡高瀬町西下
▽大川郡長尾町長尾是行谷
▽綾歌郡飯山町坂本下真時

 裸麦の代替作物にマッシュルーム、促成野菜、トマト、イチゴ、たばこ。そして、土地の代替利用として養豚、養鶏の名前が挙がってきました。続いて、県では小麦への転作の呼びかけを始めます。

(10月17日)

小麦と裸麦 来年度は半々に 県下、小麦へ転換を呼びかけ

 県下の麦作はこれまで6:4の割りでハダカ麦の作付けが多かったが、県では麦作不振の打開に小麦作への転換をはかり、36年度には比率を5:5にもっていく考えで、農家に強く呼びかける。また同じハダカ麦の栽培でも、つとめて色の白い品種を選び、品種転換で不振を打開する。

 県のまとめたところによると、36年度の麦作は作付け面積3万4000ヘクタールが予定されている。35年度は約2万ヘクタールにハダカ麦が栽培されたのを、今年は前作付け面積の半分の1万7000ヘクタールに縮め、反対に小麦は3000ヘクタールを増やす。これで比率は半々となる。加えて省力栽培を中心に、ゆくゆくは小麦7、ハダカ麦3の割合となるよう指導を進めていく。というのも、香川の小麦はグルテンが多くふくまれ、パン、メン類にもよく、これらの消費は将来伸びると予想される。「農林26号」「農林67号」「巡礼小麦」の3品種の普及をはかる。ハダカ麦は作付けを減らすとともに、品種の転換をはかる。麦作不振の原因も「黄色いから嫌われる」ということがあるだけに、色の白い質のよい品種を奨励する。従って「三保珍子」「香川ハダカ一号」を「白姫ハダカ」「タナギハダカ」に切り替える。だが、今のところ全面的に切り替えも難しいので、色は悪くても多収穫で作りやすい「三保珍子」は自家用に、「白姫」「タナギ」などは出荷販売用に計画栽培することにしている。

 先に香川の麦の作付け面積は「裸麦2、小麦1」の割合とありましたが、ここでは「6:4」と書かれています。どうもこの年の四国新聞は記事中の数字があちこちで錯綜しているようですが(笑)、とりあえず、香川の麦作はこのあたりから裸麦に見切りをつけて小麦にシフトし始めたことは間違いないようで(のちの資料でよく出てくる「ジュンレイコムギ」は「巡礼小麦」と書くんですね)、そのあおりを食って、珍名裸麦の「三保珍子」はついにお払い箱です(笑)。

(11月10日)

現行麦価を保証せよ 西日本対策協議会開く

 西日本地区麦対策協議会は9、10の両日、香川県仲多度郡琴平町さくらや旅館で開かれている。この協議会は、最近における麦の生産管理をめぐり、政府としても麦に対する対策をさる8月から農林省麦対策協議会で調査研究しており、これに対する結論を西日本地区代表が意見を交換して対策を立てるために開いたもので、西日本地区米価対策協議会(吉田義美会長)が主催で滋賀、愛知、三重、兵庫、岡山、山口、鳥取、大分、愛媛、高知、徳島、香川など12県の農協中央会が参加して開いた。

 9日は午前10時から開会、全国農協中央会農政部主任藤城吉晴氏から、小麦については国内の増産によって自給度の向上をはかり、輸入の圧縮につとめる、生産の合理化および麦の作付転換、麦の統制、価格など麦対策についての中央情勢の報告があり、次いで地方情勢の報告に移り、香川県農協中央会木村営農課長から「35年秋まき麦についてはすでにハ種期に入っているので、その価格は今回の麦対策協議会の結論いかんを問わず現行制度による価格、政府買入れを保証してもらいたい」など、各県代表が地域に即した麦対策についての報告をしたあと、これらの問題を中心に全体討議を行なった。特に麦の生産面と価格についての意見が活発に出され、政府の食管会計の赤字増大から麦の現行価格の引き下げが問題となっているが、これでは農業経営が成り立たないので、あくまで現行価格を保証してもらいたいことなどを決めた。10日は麦対策方針と実現化方途について協議するが、この協議会で出た麦対策についての結論を来たる12月9日開かれる全国農協大会に西日本地区の議題として提出する。

 西日本地区の農協の「麦」に関する対策会議が開かれましたが、「国の財政が赤字になっても現行価格を保証してもらいたい」という意見でまとまったようです。普通に考えればひどい話ですが、残念ながら今も同じようなことがあちこちで行われているので、当時だけを非難するわけにはいきません(泣)。そして、農協と消費者の板挟みになった政府は、精麦業者と卸売り業者に値下げを働きかけ…

(12月1日)

今日最後の協力を業者に呼びかけ 県、麦の価格引き下げ

 麦の売れ行き不振の打開にさまざまな手が打たれているが、これといった決め手はなく、せっかく消費者価格の引き下げで消費を促進しようという政府の狙いも末端には行き渡らないようで、県では持て余している5万6000トンの在庫をはくため、きょう1日、最後の「価格引き下げ」への協力を業者に呼びかけることにしている。

(12月16日)

価格引き下げ認める 県下精麦工場と卸売り業者

 県ではこのほど、県下の精麦業者、麦の販売業者の代表を招いて麦の販売価格の引き下げについてはかった結果、精麦業者も販売価格の引き下げを認め、卸売業者も趣旨に賛成、上級品は1キロ当たり58円までとし、上級品以外(現行中級品57円、並級品55円)は現在の価格より1円から2円引き下げることを申し合わせ、実施することとした。

 ハダカ麦の消費はこのところ打ち続く豊作と食生活の慣行の変化で売れ行き不振。そこで政府は消費価格の引き下げをはかるため、政府麦の売り渡し価格を1キロ当たり上級品で3円、中級品で2円、並級品で1円下げ、それが消費者にまで及ぶように各県に働きかけていた。今、精麦工場、卸売り業者が価格引き下げについて同意したわけで、あとは小売業者に働きかけ、消費者価格を引き下げ、麦の消費促進に乗り出す。なお、現在県内麦のハダカ麦は5万6682トンの在庫があり、昨年同期(4万2386トン)に比べると1万4000トンも多く、これらの価格引き下げのほか、健康食、経済食をキャッチフレーズにどんどん消費するように一般に呼びかけたいとしている。

 というわけで、昭和35年の麦作は、「裸麦」に対する逆風が表面化してきた年でした。香川県の麦の作付け面積は、昭和35年に「裸麦2万ha、小麦1万4000ha」でしたが、昭和36年にはこれを「裸麦1万7000ha、小麦1万7000ha」の半々にするとあり、裸麦はこのあと次第に作付け面積を減らしていくことになります。しかし、香川の小麦の作付け面積はここからどんどん増えていくのかと思いきや、実はそうはならないのです。少し先走りますが、香川の小麦の作付け面積は昭和40年のデータで約1万1000haとあり、増えるどころか微減していきます。そして昭和45年には天候不順もあってわずか3500haにまで落ち込み、大半がオーストラリア産に切り替わって、それ以降復活することなく今日に至るのです。そのあたりの経緯は、本稿の続編を待つことにしましょう。

精麦業界もストで混乱

 続いて、県下精麦業界の混乱のニュース。麦の需要減は当然精麦業界にも影響を及ぼし、精麦会社は事業の縮小を余儀なくされます。しかし、労働組合はそれに反発し、ついにストに踏み切りました。

(3月1日)

解雇撤回へ無期限スト 坂出精麦合同労組 15回の団交、遂に決裂

 坂出精麦合同労働組合(組合員9人)では、かねて同組合員である○○精麦所の従業員2人が解雇されたことを不当労働行為であるとして15回にわたり団体交渉を行なって来たが、28日、最後の団体交渉が決裂、実力行使に入るむねの宣言をしてもの別れとなり、29日午前6時半から坂出地区労連、香川地評の指示により無期限ストに入った。

 坂出精麦合同労組のほか、坂出地区労連翼下の23単組から約60人、香川地評から約20人がこのストに参加。闘争本部を坂出地区労連内に置き、○○精麦所の精麦工場2ヵ所、製粉製めん工場2ヵ所の出入口に赤札を立て、ピケを張る一方、市内へ自動車を走らせマイクで一般市民へ協力を呼びかけた。会社側はあらかじめこのことを見越し、「工場を閉鎖し、スト参加者の入場を禁止する」という立札を立てていた。

 当総本部では、今度のストは○○精麦所の不当労働行為によるものだけに、会社側が首切りを撤回し復職を認めるまで続けるので長期化を予想している。「地区労翼下23単組から交代で60人、地評から20人を毎日動員する計画だ」と語っている。また、○○精麦所社長は「過去13回にわたり誠意をもって団体交渉を続け、今一歩で解決するところまでこぎつけたが、組合側が突然それまでの交渉を白紙に返し、ストに入るというひょう変ぶりを示したので驚いている。当方としてはピケラインを突破して工場内に入り、操業することは摩擦を生じるのでしたくない。しばらく静観してこちらの誠意がわかってもらえれば円満解決もできるものと考えている。それには相当日時を要するが、それも覚悟している」と語っているので、このストは相当長期化するものとみられる。

 今度の首切りは、米の豊作で麦の需要が減り、精麦業界が不振になったため企業縮小をせざるを得ない状態になったことが原因で、○○精麦所では35人の従業員中、最初は12人の解雇を計画したが、○○精麦所労働組合(組合員27人)と交渉の結果、同組合員から3人、坂出精麦合同労組に加入している従業員から2人、合計5人の解雇を行おうとしたものである。なお、○○精麦所労働組合員は同日、○○委員長宅に全員が集まり、スト中の就業問題について相談を行なっているが、その休業期間中は会社側(出資者)宅でそれぞれ家事の手伝いを行なうことになるもよう。

(3月2日)

デモで団交要求 坂出精麦 実力行使第2日

 坂出精麦合同組合員2人の解雇撤回、復職を要求するストは1日も続けられ、動員数は香川地評20人、坂出地区労40人、計60人と前日より20人少なかった。前日通り○○精麦所の2工場4ヵ所に赤旗を立て、ピケを張っているほか、午前7時ごろと午後2時半ごろの2回、○○精麦所社長宅前でデモ行進を行ない、正常な団交を行うため○○氏に面会を要求し、約10本の赤旗を立ててマイクで市民の協力を呼びかけた。

 一方、○○氏は「多数で押しかけられても正常な団交はできない。従来のいきさつをよく知っている委員長ら2、3人の代表となら話し合う用意はあるが、今の状態では無理だ」と語っている。双方とも長期化を覚悟しているようで、解決までには相当の日数を要するもよう。なお、同日午後2時ごろ、県地方労働委員会事務局の植松調整課長が現地調査に訪れたが、まだ調停の段階には入っていないようだ。

 労働組合が活発な時代の騒動ですが、それでも時代の流れは止められず、外麦は粛々と輸入されていきます。

(6月7日)

カナダ小麦1万余トン積み入港 坂出港へスウェーデン船

 スウェーデンの新造船ソナタ号(9055トン)はバンクーバーからカナダ産小麦1万2563トンを積んで4日坂出港に入港、5日午後から荷役を始めた。この小麦は香川県9463トン、愛媛、徳島両県へそれぞれ1500トン、高知県へ100トン配分されるが、坂出港の荷役能力は1日約3000トンなので、10日ごろまでかかる見込み。なお、陸揚げされた小麦のうち香川県向けの9463トンは東洋物産など6倉庫に入れてクン除を行なった上、配分される。

 昨年1月から6月までに坂出港へ大麦1万7761トン(4隻)、小麦6221トン(2隻)、計3万3982トンが輸入されているが、昨年9月から全面的に大麦の輸入が中止になり、今年は1月から現在までに小麦だけが2万1000トン輸入されている。大麦、小麦あわせた数量には及ばないが、小麦だけについてみるとすでに3倍以上輸入されているわけで、小麦は昨年より20%輸入増の計画なので、今後とも坂出港に四国全体の小麦がどしどし輸入される見通しである。なお、6日午後2時からは鎌田助役、入宮市会議長らが同船を訪れて慰問した。

そうめんとドジョウとニンニクの話題

 続いて、その他の食材関連記事をいくつか。

(11月22日)

生産はじまる 小豆島特産手延べソーメン

 小豆島特産の手延べソーメンの生産がはじまった。現在、池田町内130~140戸の農家が副業としてやっており、来年3月までに5万箱を生産する。昨年度は目標が4万箱だったが、実際生産したのは4万9000箱。しかもストックが全くないので、今後農家では製造に拍車をかける。販路は約5割が九州、あとは地元をはじめ阪神、中国方面。価格は1箱(18キロ入り)1300~1400円といったところ。

 小豆島のそうめんに関するデータを遡ってみると、昭和26年に「生産量は3万箱へ」という記事がありました。その後、昭和29年には「4万箱」を見込んでいながら天候不順の影響で「3万箱弱か」とありましたが、この年は5万箱が予想され、押し並べて順調に伸びているようです。

(11月9日)

将来は期待できる 県水試「水田のドジョウ養殖」に人気

 農業経営の打開をはかろうと、最近県下各地の農家で淡水漁業に食手を出すものが現われ、県水試に「水田のドジョウ養殖」についての問い合わせが殺到している。これは、農家が限られた土地で今までのように米、麦、葉たばこなどを作っているのでは収入も少ないので、水田でドジョウを養殖して多角経営で収入を増やそうというもので、大川、仲多度、三豊の各郡などから50数件の問い合わせが来ている。主として農協が中心になって行おうとの計画が多いようであるが、「漁業法が適用されないので、養殖しても保護の権利がないので困る」「販路とか淡水漁業者との話し合いさえつけば、将来期待される産業だ」と同水試では言っている。

 農業経営の多角化で「ドジョウ」に目を付けたようです。「将来期待される産業だ」という水産試験場のコメントが載っていましたが、結果論ですがちょっとスジが悪かったみたいですね。

(11月24日)

作付け去年の20倍 県下のニンニク 麦作よりずっと有利

 薬品、調味料の原料として国内、国外の需要が伸び、県下のニンニク栽培は面積で一躍昨年の20倍の飛躍をみせた。県が22日まとめたところによると、ニンニクの栽培面積は80ヘクタールとなっている。これは昨年の4ヘクタールからするとめざましい伸びである。

 ニンニクは24年ごろから対米、南方貿易品としてクローズアップされ、国内でもソース、アリナミンの原料として細々ながら栽培されてきた。それが今年は飛躍的な面積増大を見せた。というのも、農家の人たちは不振の麦作を有利な換金作物でおぎなおうというもので、10アール当たり1トンの収量があり、価格にして2万5000円、麦が1万6000円の収入だから、よほど有利というわけで、ニンニク栽培に魅力が集中した。ニンニクは麦跡早期、サツマイモの跡作によく、植え付け適期は9月中下旬、収穫は6月上旬。県下では普通水稲の跡作としても栽培が可能なので、さらに伸びが期待される。排水のよい中性粘土の土質が栽培に向き、「管理に注意すれば輸出規格に合った良質のニンニクができる」と県も言っている。

 「ニンニク栽培」が新聞記事に初登場です。香川のニンニクの収穫量は2016年データで全国2位(1位は断トツで青森。香川は青森の20分の1に過ぎませんが)ですが、その発端はこの時代だったのかもしれません。

うどん関連の求人に「月収1万円」が登場?!

 では最後に、うどん関連の広告と求人を見てみましょう。

協賛広告

(7月8日)
祝 四国銀行善通寺支店新築落成
●高畑精麦所

(7月29日)
第42回全国高校野球北四国大会出場の多度津工高の必勝を祈る
●日讃製粉株式会社

 昭和35年はうどん関連の単独広告は見つからず、協賛広告も善通寺の「高畑精麦所」と多度津の「日讃製粉」の2社だけでした。協賛広告は企業の積極的な広告というより“頼まれてお付き合い”的な要素が強いので、景気云々よりも協賛事案の有無が広告数に影響していると思われます。

 続いて、求人広告。

求人広告

(1月13日)
▽女子従業員募集/ウエイトレス(通勤、20才迄)、調理雑務(通勤、30才迄)
●喫茶・洋菓子 アズマヤ

(2月2日)
▽男女従業員募集/年齢25才迄、住込可能な方、経験者優遇
●手打うどん製造卸(有)金泉食糧商会

(11月30日)
▽女子従業員募集/ウエイトレス及びレジスター、20才前後・通勤及び入寮、週休制・年次有給休暇実施、給与7500円
●洋菓子・喫茶 アズマヤ

 まず、単独で求人広告を出していたのは「金泉」と「アズマヤ」の2社のみ。アズマヤは喫茶ですが、「うどんを出す喫茶」でおなじみですのでピックアップしてみました(笑)。新聞に求人広告を出すのは当然有料ですが(職安に求人を出すのは無料)、「お金をかけても人が欲しい」ということは、金泉もアズマヤもこの時期、事業がそれなりに好調だということでしょう。

 一方、職安に寄せられた多数の求人をくまなくチェックしていると、ついに「月給1万円」の数字が出てきました。

(10月16日)高松公共職業安定所
▽男子配達人/15~50才、経不要、月収3000円~10000円
●市内某製麺所

(10月31日)丸亀公共職業安定所
▽男子玉うどん製造職人、20~40才、住月収10000円(手取)
●東京都某食品工業所

 「市内某製麺所」の「月収3000円~10000円」はあまりに幅がありすぎてちょっと怪しい(出来高制みたいな要素が入っているのかも…)。また、「東京都某食品工業所」は東京相場なので香川より高いのは当然ですが、そのあたりには目をつぶって、とりあえずうどん関連の求人で「月収1万円」が新聞に登場したのは昭和35年が最初です。

(昭和36年に続く)

  • TAGS: 
  • 関連URL: 

ページTOPへ