母の「打ち込み」が最高のごちそう
18年前に亡くなったばあちゃん(母親)が作ってくれていた打ち込みうどんが、わしにとっては、最高にうまいうどんやのう。夕方になって、突然うどん粉を練り始めると、「あっ、打ち込みや」と子供たちは小躍りしたものや。なぜか「打ち込みうどん」とは言わずに単に「打ち込み」と呼んでいた。まだ元気だったじいちゃん(父親)も何杯もお代わりしていた。ご飯とちょっとしたおかずがあれば完ぺきやけど、ご飯がなくても腹いっぱいになる「打ち込み」は、農作業が忙しい時などに重宝しとったみたいや。
「打ち込み」に入れるうどんは、うどん屋で食べるうどんや近所の店で玉を買ってくる白くて細いうどんとはまるで別物だった。太いというか、平たく短いうどん粉のかたまり状のものをみそで煮込むんや。ダシは多分、イリコだったと思う。行商の人が白い大きい紙袋に入ったイリコを売りに来よった。当時から、伊吹のイリコは有名やった。具は、サトイモやナス、ネギ、ダイコン、油揚げなどありあわせのものが入っていたが、肉はあまり入っていたことはなかったなあ。けど、これがうまいんや。あの、はた(やけど)しそうな熱々のうどんとまったりした汁の味が忘れられんわ。食べた後は、鍋の底までさらえてきれいになっとったな。今も、時々、嫁に頼んで作ってもろて食べよるわ。うまいんはうまいんやけど、なぜか、ばあちゃんの味は出んな。
近所で、男手一人で2人の息子を育てていたおじさんがおった。このおじさんは、ボウルのような入れ物を持って近くの井出に行き、ちゃっちゃっとドジョウを取ってきて、ドジョウを入れた「打ち込み」を作って息子たちに食べさせていた。ドジョウがおるとこ知っとったんやな。子供のころのわしは、食べたことがなかった。うちの家ではドジョウを入れることはなかった。多分、親が好かんかったんやと思うわ。高瀬あたりでは、あまりドジョウを入れたうどんは食わんな。
ドジョウ汁は大人になってから
おせ(大人)になって、丸亀あたりの友人にドジョウ汁に誘われることがある。自分たちでドジョウ汁を作って楽しむという集まりで、人がようけ(いっぱい)おった。祭りの打ち上げや農繁期の終わりなど、何かことあるごとに集まって、ドジョウ汁を炊いていたみたいやった。綾歌郡が本場やと聞いたことがあるけど、こんな風習は三豊にはないんと違うかな。大きい釜で作るドジョウ汁は、何回か食べたら癖になるうまさやなあ。若いうちは何杯もお代わりしよった。今は一杯を味わって食べよる。高瀬でドジョウ汁をやるグループはあるんかいな。